徒然なる哲学日記

徒然なる哲学日記

日常生活の出来事にたいする考察(セネカの倫理書簡124通の英訳からの訳を公開してます)

セネカ 倫理書簡96 苦難に向き合うことについて

 1. 君は或ることにずっと苛立ったり不平を言ったりしていますが、君が言うそれらの中で、実際に問題なのはただ一点、つまり君が不平を言っているということ自体だということを、理解していますでしょうか?僕に言わせれば、人が宇宙存在の何か*1を不幸だと考えない限り、人にとって不幸なものなど何もないと思われます。僕が何かに耐えられなくなった暁には、自分自身にすら耐えられなくなるでしょう。

 僕は病気ですが、これは僕の運命の一部です。家僕も病に伏せ、資産運用も失敗し、家はひび割れ、損益、事故、労苦、恐怖に襲われていますが、これらはよくあることです。いえ、不十分な言い方でした。これらは必ず起こることです。こうした出来事は偶然に起こるのではなく、宿命によって定められています。2. 僕を信じて頂けるなら、僕は今心底からの気持ちを君に打ち明けています*2。あらゆることが困難で厄介なものになった時、僕はただ神に従うのではなく、神の決定に進んで賛同するよう、自分自身を訓練してきました。僕が神に従うのは、仕方ないからではなく、僕の魂がそれを望むからです。僕が不機嫌になったり、不満気に何かを受けとめることはありません。僕はどんな税金も喜んで支払います。われわれが嘆いたり、恐れたりする全ては、人生にかかる税金です。愛するルキリウス君、君はゆめゆめそれらから逃れることを望んだり、求めたりすることのないように。

 3. 君は膀胱の病気に苦しめられており、頂いた手紙も元気がありません。状態は悪くなる一方です。有り体に言うならば君は命の危険を恐れています。しかしどうでしょう、君は長寿を願っていた時に、今の状態をも願っていたことを知らなかったのですか?長い旅は砂塵や泥や雨にまみれるのと同じように、長い人生は、それらのあらゆる困難を伴います。4. 「しかし」君は言われる。「私は長く生きると同時に、あらゆる困難も免れたかった。」そのような女々しい泣き言は、男子に相応しくありません。次の僕の願いを(僕は善意からのみならず、高貴な精神からもこれを捧げますが)、君がどのような態度で受け止めるべきか、考えてみて下さい。「神々も女神も一様に、幸運が君を享楽の虜にすることを妨げんことを!」5. 次のことをご自身に尋ねてみて下さい―—もし神々に、市場での生活と、戦場での生活のどちらを選ぶかと問われたら、どうするかを。

 そしてルキリウス君、生きることは戦うことです。したがって、海で波に揉まれたり、険しい岩場や山道を上り下りしたり、最大の危険を伴う遠征に参加したりする人々は英雄であり、最前線に立つ兵士なのです。しかし、他の人々が苦労している時に、贅沢で安穏な堕落した暮らしをしている連中は軟弱な小鳩であり、蔑まれているから安全というだけです。お元気で。

 

・英語原文

Moral letters to Lucilius/Letter 96 - Wikisource, the free online library

・解説

 明らかに強がっているが、こうしたユーモアもセネカの魅力である。そして、言っていること自体は素晴らしく、見習うべき教訓が多くある。

 

 

 

 

 

 

*1:自然災害や敵意など

*2:多少は強がっているという冗談の混ざった表現だと思う。