徒然なる哲学日記

徒然なる哲学日記

日常生活の出来事にたいする考察(セネカの倫理書簡124通の英訳からの訳を公開してます)

【書評】仕事なんか生きがいにするな~生きる意味を再び考える~

 「バカの壁」をはじめおよそ新書というのはタイトルだけ奇抜で読む価値のないゴミが書店に跋扈してるものだが、本書はタイトルのインパクトに全く劣らない中身であり、久々にいい本を買ったものだと嬉しくなった。

 

今の若い人達は、仕事に生きがいを見出すことなんか出来ない

 毎日会社が嫌で嫌で仕方ない僕は、クソ上司や先輩方ののたまう「やる気」や「努力」というワードがさっぱりピンと来ない。つまらない仕事なんかに自己実現の余地を見いだせないのだ。

 

「現代の若い世代の人々は、情報化が進んだことによって、大人たちが表面上演じている『社会的自己』すなわち『役割的自己』について、その舞台裏の空疎な実態を、かなり早い段階から知ることができる環境にあります。そのために、昔の世代ののように楽観的で希望に満ちた将来像を描いたり、夢に向かって無邪気に進むことができにくくなっているのではないかと思われます。」 ~P14

 

 本書の著者は精神科医でもあり、文章が非常に綺麗で理知的なものにまとまっており、若い人達の不満や悩みを丁寧に描写している。上の引用文もそうだ。ネットやまとめブログなどで、日々新たな情報を仕入れ、その中で、人間がいかに醜く欲深で、下らない存在かということや、日本経済の悲惨な状況、グローバル社会における日本企業の時代遅れっぷり等、2~30年前の大人が知りもしなかったことを、社会に出る前から多くを知ってしまっているのだ。そして何も、単に知識としてだけではなく、低賃金や長時間労働スクールカーストやイジメといった、悲惨な体験を通して、心と体で嫌というほど味わってきている。ただ直線的な「努力」をしていればよかった昔とは異なり、今は柔軟性や適応能力、コミュニケーション能力、恋愛経験など多くを求められ、ただでさえ苦しい状況にある若い人達は日々追い詰められ、はては欝病や自殺に至る。

 

 そんな風に、日々生き辛さや苦しみを感じている若者に本書の言う所の「ハングリー・モチベーション」をよりどころに生きてきた大人たちはこういう。「努力が足りない」「やる気が足りない」「甘えるな」「いつまで学生気分なんだ」「人のせいにするな」などなど…。

 

 「何故仕事をするのか」「何のために生きるのか」といった若い人達の真剣で切実な問いかけに対し、虫ケラに例えられた大人は上のような恫喝まがいのセリフを吐き、自らの思考停止と、「ハングリー・モチベーション」に基づく貪欲を正当化する。

 

 本書では、若い人達の立場から見た、労働賛美社会の異様さや生き辛さが、他にも様々な文章で描写されおり、それらを丁寧に考察していくことは、会社で暴走する老害や、毒親等と戦う際にも、必ずや助けとなるだろう。

 

 全くやりがいのない仕事なのに上司や先輩が「やる気」を要求することに苦しんでいる方や、仕事でいくら努力しても評価して貰えない方。親や教師が自分の将来への不安について全く無理解な方などにおススメの一冊である。でも本当は、会社の重役にいるような人達や親や教師こそが、率先して読むべきような本なのだが、残念ながらその手の「ハラスメント」的な指導者たちの多くは、読書をして教養を深めるなどといったことはしたがらない。旧態依然の「ハングリー・モチベーション」に死ぬまでしがみつき、自尊心という排泄物をまき散らしながらその後始末を若い人達にさせ、逃げ切ろうと考えている彼等は、もはや「虫ケラ」にも劣るダニのような存在である。

 

 ガチのマジで名著である。論理的で美しい文章。さまざまな過去の知事人や文豪からの引用。精神医学・心理学の本としても非常にレベルが高くそれでいて読みやすい。これを読まない産業医産業医ではなく虫けらと言っても全く言い過ぎではない。教師も読め。