徒然なる哲学日記

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日常生活の出来事にたいする考察(セネカの倫理書簡124通の英訳からの訳を公開してます)

映画「ピーターラビット2〜バーナバスの誘惑〜」は映画史に残る名作※ネタバレを含みます

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 先日、映画「ピーターラビット2」を観てきたが非常に素晴らしい映画であった。前作からして型に囚われないそれでいて王道を大きく外れることもない、モラルとユーモアとスリルとロマンスが程よいバランスで織り交ぜられた素晴らしい作風だったが、「2」では前作を上回る出来であった。その理由を以下につらつらと書いていく。ネタバレを含むのでまだ観てないという方は注意して頂きたい。

 

 この映画は、絵本の「ピーターラビット」が原作で、主人のピーターを含む5匹のうさぎと、マクレガー夫妻(夫トーマスと妻のビア。馴れ初めが知りたい人は前作を見ろ)の物語であるが、今作ではピーター達とトーマス達との絡みは前作ほどはなく、ピーターと誘惑者の街うさぎのバーナバスの物語がメインとなる。

 

 いたずらっ子でやんちゃなピーターは、とあることでトーマスに叱られ、「お前は悪い子だ」と言われてしまう。それはトーマスの誤解であったのだが、前作からの因縁もあり、たびたび「悪い子」と言われてしまったピーターは、「どうせ自分は悪い子なんだ」と闇落ちしてしまい、盗人うさぎである街うさぎのバーナバスに唆されて、人間の食べ物を盗む計画に加担してしまうことになる。このあたりの心理描写と設定が非常に見事である。この手の可愛らしい動物を使ったディズニーあたりの物語では、単調な勧善懲悪やほのぼの物語で無難だがつまらない仕上げにしてくるのが鉄板なのだが、この映画ではピーターラビットという可愛いうさぎがグレて泥棒になってしまう。所謂闇落ちだがこうした側面がない主人公というのはどうも人間らしさに欠けて個人的にはイマイチ共感できない。人に悪く言われていじけて実際に悪事を働くようになるという心の動きは非常に人間らしい。この監督は人間のことをよく分かっているし、だからこそ動物の描写もこれほど上手なのだろう。

 

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 さて、悪い子になってしまったピーターはなんやかんやの後でバーナバス達と共謀して、人間からありったけのドライフルーツを強奪するのに成功するのだが、その直後、バーナバスに裏切られ、強奪に協力したピーターの家族の4匹のうさぎと友達の動物達が、人間達に捕らえられてしまう。ピーターはここで自分が騙され、最初からバーナバスに利用されていたことに気づく。そして、自分がいじけて悪人のフリをしていたら、いつの間にか本当に悪人になってしまっていたのだということにも。ピーターはすぐさま自分を取り戻し、トーマスと和解し、およそピーターラビットの物語には似つかわしくないほどスリル溢れる様々な方法で、散り散りになった仲間達の救出作戦に向かうのだ。このあたりは是非映画館でチェックして頂きたい。

 

 また、トーマスとビアについても、同じテーマがある。トーマスは自分が父親になることに自信が持てず、ついピーターにきつくあたってしう。ビアはというと、自分が書いた絵本の「ピーターラビット」の商業展開に夢中になる余り、自分が本当に書きたいものは何かを忘れ、自分を見失ってしまう。特にビアに関するストーリー展開は監督の自分の作品に対する強い信念のようなものが垣間見えて、とても好感を抱いた。ピーター達との話と平行して進むのも、見事な相似形の物語に組み上がっている。

 

 ピーター、トーマス、ビアの3人に共通するのは、いずれも「他者を気にする余り、自分を見失っていた」という点だ。ピーターは、トーマスに何を言われようと、自分は自分だという気持ちを強く持つ必要があり、物語を通してそれを身につけていく。トーマスも相も変わらずピーターと激しくぶつかっていたが、ピーター達のピンチに協力していく中で、自分を取り戻していく。ビアもマネージャーの口車に乗せられて商業展開に囚われるあまり自分の作風を忘れるほどに自分を見失ってしまうが、うさぎ達を乱暴に扱われて、ハッとして自分を取り戻し、自分の本来の作風を思い出す。三人に共通していた課題は、「他人に何と言われようと、自分を見失わないこと」だ。承認欲求やその他の外側の出来事に囚われると、自分が本当に何をしたいのか、何をすべきなのか、どうありたいのか、どうしていたいのかが分からなくなってしまう。結果、仲間を傷つけたり、大切なものを失ってしまったりする。自分が何であるかは自分で決め、みっともなくその責任を誰かに委ねるような真似はしない。自分の信念を信じるという気持ちが大切だということだ。この手の動物映画は薄っぺらい道徳やなかよしでいいですねー展開に終わる駄作が多い中、非常に独創的でありながら、大切なことをふんだんに込めてそれを自然な形で伝える素晴らしい映画であったと思う。このような映画が観れることを我々は神に感謝すべきだし、こうした作品の素晴らしさは学問のように整理されて世に語り継がれていくべきなのである。

 

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